【読書日記】忘れられた巨人

カズオ・イシグロの最新長編。二回目の読了。

アーサー王伝説を下敷きに、サクソン人とブリトン人の(忘れられた)対立を描くもの。

イシグロの長編は、『充たされざるもの』等、主題がつかみずらいものもあるが、本作はクリア。「忘れる」ことの意味。歴史を伝えることの功罪。

 

主人公であるブリトン人の夫婦は、「なにか思い出せない」記憶を抱えたまま、イングランドを旅することになる。思い出せないものは、過去におけるサクソン人とブリトン人の戦い・殺戮の歴史である。その記憶をだれもが、霧のなかで忘れているからこそ、表面上、サクソン人とブリトン人は共存している。ところが、物語の終幕、その記憶は呼び起こされてしまう。

 

イシグロが指摘することは、①忘れることの重要性なのか、それとも、②過去は忘れることができない、という警句なのか。

 

民族紛争における虐殺を経験したルワンダでは、昨日までの隣人に、自分の家族を殺された人が多くいるという。ルワンダは、虐殺時の罪をあまり追及しすぎない、赦しによって国を再生させつつある。これは、忘れることの重要性を示しているのか、それとも、結局のところ、いつかの将来において、忘れようとした記憶が呼び起こされ、再びの紛争を生みかねないのか。